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Yuri ♡Love story…

好きな人を想う愛おしい時間がここにある。とっておきのラブストーリー。

第三章  元カノの存在…

はち切れそうな緊張が私の中に張り巡らされる。私の視線は彼の口元に釘付けになり、中々動かすことができなくなった。

 「うん、いないよ」

彼のはにかんだ笑顔とその一言で、私の凍っていた視線は一瞬にして溶かされた。

緊張感がほどけて肩まで軽くなったような気がした。

 「そ、そうなんですか?中川さんって社内でも人気だし、すごくモテるから本当はいるんじゃないかと思って」

 「いないいない。もう二年近くいないかな」

 「へぇ、意外です」

 「そうかな?俺なんて前に付き合ってた彼女にいきなり捨てられたくらいの男だよ」

 「捨てられた?」

 「うん、フラれたというより捨てられたという方が正しい」

 中川さんの元カノの話を大まかに聞き出した。彼女(愛さん)とは三年程付き合った後、プロポーズをしたが愛さんはそれを断った。

そして彼女はファッションデザイナーになるという自分自身の夢を追い求め、一路フランスへと飛び発った。

 それを聞いてなんとなく彼女を作らない理由がわかってしまった気がした。

 「矢口さん?」

ハッとした。いつの間にか私は黙り込み、考えの中に入っていたようだ。

 「あっすいません、パスタ冷めちゃいますね」

 目の前にボヤがかかり、沈んだ気持ちになったのは確かだった。さっきまで美味しく感じていたパスタの味が全然わからなくなっていた。

 ウェイターが空いた皿をさげていく。

 「そろそろ時間だね」

時計を覗きながら、中川さんは息を漏らすように呟いた。その言葉尻がどこか寂しそうで、私は思わず嬉しくなる。

 「そうですね、一時間って短いなぁ」

 「本当だね。今日はご馳走させて」

 「えっ、いいんですか?」

彼は伝票を持ち、腰を持ち上げた。その後ろを歩こうと椅子を引いた時、彼が振り返って言った。

 「そうそう、その代わりといってはなんだけど今度ディナーでもどう?」

 「えっ?」

 私は一瞬耳を疑った。彼の視線が私を急かす。

 「いや、今日は一時間しかなかったし、矢口さんともっと話したいなと思って。もちろんよければだけど」

 びっくりしている私に彼は優しくそういった。

 「ぜひ行きたいです!」

 私は慌てて言った。さっき、愛さんの話を聞いていたころとは一転し、視界がパァーと明るくなり、心が躍った。

 「よかった。じゃあ詳細はまたメールで」

 彼は優しく微笑み返す。

 「はいっ、楽しみにしてます。今日は美味しいランチごちそうさまでした」

中川さんが会計を済ませるのを待つ間、私は手や足の先に身震いを感じていた。興奮が覚めず、どうにも落ち着かない。

そして、レストランに向かっていたとき以上に幸せな気持ちを噛み締め、中川さんの隣に並んで会社へと戻る。足取りが驚くほど軽い。

 社に戻り、仕事を再開したがパソコンを打つ手が少し震えた。嬉しいことがあっても震えって起こるんだな。頭が興奮して落ち着かなかった。

でも、さっき感じた嫌な予感…考え過ぎだよね。もう彼女は日本にいないわけだし。私は高鳴る胸を押さえながら中川さんからのメールを読み返した。

 

 「矢口さん、接客お願いできないかしら」

 「はい、行きます」

 突然の接客ヘルプも今日は快く受けられた。中川さんへのお礼メールあとで送ろうっと。

 今日は麻紀がお休みなのが残念だけど、帰ったらすぐに電話をして、今日のことさっそく報告しなくちゃ。長電話決定だな。

 店に出ると、店内はいつも以上に賑わいを見せていた。さすが金曜日の午後だ。

 そしてしばらくレジに立っていると「こんにちわ」と明るい声がした。

 「あっ」

 「今日はすぐ気付いてくれましたね」

 顔を上げると小池君が立っていた。彼はニカっと笑って配達物を渡した。今回は部長宛の小さな小包だった。

 「これお願いします」

 受け取り伝票にサインを頼んだ。

 「いつもありがとう」

 私は前回の態度を撤回するかのように丁寧な挨拶をした。

 「矢口さん、今日すごい元気ですね」

 「え?」

 彼と視線がぶつかって一瞬胸の奥がキュンと高鳴った。前回は気付かなかったがすごく綺麗でまっすぐな瞳をしている。

 「そんな気がしました。サインありがとうございます」

 彼はそういって頭を下げた。そのとき、クールで男らしい匂いがしたので小さく空気を吸い込んだ。

 私の大好きな爽やかでクールな香りだったので嬉しくなった。麻紀の一押しっていうのがなんとなくわかった気がした。

 そして、彼は今日もエレベーターに乗ったあとこちらに向かって笑顔を見せた。若々しく元気な笑顔とは裏腹の男らしい匂いがいい男に魅せた。あんな彼氏もいいなぁ。と本能的に思ってしまった。

 

 家に帰ると化粧も落とさず電話を鳴らした。小走りで帰ってきたため少し息が荒かったが息を整える時間は割かなかった。

 三コールくらいで繋がった。

 「もしもし麻紀?今日行ってきたんだけどさ」

 相手の声を確認しないまま私は喋り始めた。

 「どうだった?」

 私の性格と今日のことを知っていた彼女は冷静に応対した。

 「うん、中川さんね…」

 いつも並んでいて入れないイタリアンレストランに行ったこと、食べ方がきれいだったこと、元カノの話、ディナーに誘ってくれた話を次々に話した。

 「で、どう思う?」

 私はそう締めくくり、はぁはぁと息を切らした。

 「へぇ、なんかめんどくさい予感がする」

 やはり彼女は冷静に言った。

 「でしょ?」

 「そうだったのねぇ。なんかあると思ったら元カノか」

 「納得」

 と麻紀は唸った。

 「なんかショックだった」

 「そりゃショックでしょ。プロポーズまでした女のことだからね、忘れてるなんてことはないと思うし。でもあんた誘われたんでしょ?だったら可能性あるって事だよ。純子のことは気に入ってるんだと思うよ」

 「そうなのかなぁ」

 私は不服そうに言った。

 「うん、だってあいつさ、皆にいい顔してるからよく言い寄られてるけど出かけたりしたって話は聞いたことないし、女関係だらしない感じはしないよ」

 淡々と語る麻紀の言葉を聞きながら、占い師でもやったら?と言いそうになった。

 「一言多いってば。でも麻紀が言うなら間違いないわね、実際元カノがこっちにいるわけじゃないし」

 私も強気に出てみた。

 「そうそう、最悪っつーかあんたが相当な悪運の持ち主じゃない限り大丈夫よ」

 麻紀はクスッと笑った。さりげなく痛いことを言うのは彼女の特徴である。

 「そうだよね。自分を信じてとりあえずそのことは考えないようにしとくわ」

 「うん、やれるとこまでやってみなさい。クリスマスまで時間ないんだから」

 「はぁい」

 溜め息混じりの返事をして話題を変えた。

 「あっそうそう、今日小池君来たよ。たぶん香水は…クール系」

 近所のおばさんが、噂話を入手したときのように言った。

 「おぉ、純子ベストに入る匂いじゃん」

 麻紀はよくやった、というような口調で言った。

 「うん、ちょっと興奮した」

 わざと照れくさそうに返す。

 「あははっ。あんた本当変態だよ、まぁ香りって大事だからね。特に男はさ」

 麻紀は爆笑した。私は変態なのだと再確認した。

 「そうそう。かっこよくても臭かったら話になんないもんね」

 「間違いないね。ノッチってそんなかっこよくないけどいい匂いするから首の辺り嗅いでるだけで安心するんだよね」

 そして、セックスをしたあとは特に嗅ぐ。と付け足した。

 ノッチの恐持ての顔とTシャツから見える肉付きのいい腕を思い出した。

 「ノッチって男臭い感じなのにいい匂いするとかだいぶ萌えるね。中川さんの匂いはさ、見た目通り甘くて緊張するんだけど小池君の匂いは男らしいんだけど安心する匂いなのよ」

 麻紀は匂いについて語る私をからかいながら嬉しそうに聞いた。

 「小池君も恋愛対象になっちゃったりして」

 そして不意にそんなことを言い出した。